12 Interview IEIRI KAZUMA & HIRO SUGIYAMA
家入一真氏 × ヒロ杉山氏 スペシャル対談
(Interviewer : MIKIHIRO NAGASAKI)
―― 家入さんは、コレクターとしても有名になられていますが、どういうことがきっかけでコレクターになられたんでしょうか。
家入一真 元々は自分自身が芸大、美大に行きたくて油絵をやっていて、本当は東京芸大を目指していました。なんだかんだで21歳で起業して、会社の経営をやってきて、自分自身が表現者になりたかったのに、結局なれなかったコンプレックスはずっとあって、何となく立ち上げた会社はそれぞれ運良く経営者として進んでこられたが、経営者としてうまくいっても満たされないというか、嬉しくなかったというか、本来であれば自分が表現する側になりたかったのに。
クリエイター、作り手に対して尊敬とか憧れはありつつも、どこかで嫉妬というか、そういうものも心の中に抱えていましたね。そういう一面もあって作品を所有するハードルはあった。でも一方でギャラリーにはよく足を運んでいました。ここ4,5年は、今の自分だからこそ出来るサポート的なことがないかなぁと無名の作品とか若手のアートを買い始めて、それで幅が広がってきた感じです。
国内作家のみの購入にしている。そういう思いはありました。
―― 国内作家に限っているのはなぜ?
家入一真 この作品いいなぁと思えば買ってもいいのかもしれないけど、自分だから出来る事にフォーカスしたいと思っていて、意味のあるコレクションにしていこうと。海外にまで購入の幅を広げると、それはたくさんのコレクターさんがいるから自分がする必要がないかなぁと。
だから、まだこれからの国内作家さんにフォーカスした方がいいかなぁと思っている感じです。
―― ヒロさんはアーティストを志すきっかけは?
ヒロ杉山 元々は父親が歯医者を営んでいたので、歯医者になろうとしていた。キッカケは高校の友達が日芸通っていて、彼らがやっていることを聞いていたら、それって面白そうだなぁと。そっから父親に話をしたら好きにしたらいいじゃん。となって。そこから美術系の学校に行って、一番大きかったのはヘタウマの元祖である湯村輝彦さんの弟子入りできたことです。今、ここで話が出来ているのは湯村さんのおかげだと思っています。
―― お二人とも、初めの抱いていた夢は実現しなかったのですが、、
ヒロ杉山 俺の歯医者はないけど、家入さんの画家のチャンスはあるんじゃない?
家入一真 確かに、描けばいいじゃんっていうのはわかるんですけど。ちょっとまだそこにはハードルがあって・・・。
ヒロ杉山 売れるとか売れないとか関係なく衝動的に描いてみるとか。
家入一真 そういえば、最近、「家入くんは恥をかいたかい?」と、スマイルズの遠山さんに言われたことがあって。遠山さんは、今、ユーチューブやってるんですが、自分で撮影して、動画の編集も自分でやっているんです。でも、再生回数が思った以上に伸びていないらしくて、ユーチューバーとかに教えを請いながらやっていてるんですよ。今更、何やり始めたとか、カッコ悪いことをやり始めたなぁと思われるのはわかっているんだけど、だからとって恥をかかなくなったら終わりだと思う。とおっしゃっていたんです。確かにな、と、その時に最近恥をかいてないなぁ。と感じました。絵を描かないというのは今更というか、経営者が描き始めたとか思われるんじゃないかって心をブロックしてしまっているんじゃないかと。
ヒロ杉山 だったらやりましょうよ。
長崎幹広 お二人でコラボしたらいかがですか?
ヒロ杉山 そうだね、二人でしましょうよ。
家入一真 学生の時にエンライトメント見ていて、作品とか無茶苦茶かっこいいなぁと思っていました。当時は油絵をやっていたんですけど、とても影響受けて、それから中古でマックを買ってイラストレーター使って作品作ったりとか。本当にお話ししているのが信じられない感じです。
ヒロ杉山 いやいや、僕らがマックの第一世代で、色々と発表していた時代だった。面白い時代だった。一方で学生が同じものを作れてしまうのが怖かった。
絵の具とかエアブラシとかだと技術が必要なんだけど、マックだとマネしながら出来ちゃうというか。
―― ヒロさん、今、デジタルとアナログの作品を造る割合はどのくらいなんですか?
ヒロ杉山 デジタルグラフィックが2割、アナログでキャンパスにペインティングが8割かな。最近、大きいアナログの作品作りが多くて、今の事務所から2分くらいのところにアトリエ借りて、ますますアナログの方に意識がシフトしてるかもしれない。エンライトメントはデジタルだけど、個人としてはアナログに向かってるかもという感じかなぁ。
―― アート作品は技術の発展とともに進化していると思っている。デジタルがいい点、アナログのいい点はありますか?
ヒロ杉山 デジタルは否定していないし、ピカソもその時代にマックがあればピカソは使ってたと思う。自分の中ではアナログとデジタルは別物で、画材の違いみたいな感じです。鉛筆、水彩、油絵、マックみたいな感覚ではいます。
Ipadも今すごい。水彩タッチもすごく表現できている。デジタルの最大の弱点はアウトプットだと思う。紙の質感、絵の具の染みた感じ、匂い、とかいうものとは温度差があるし、
情報量が違うので、そこがデジタルの課題かなと思っています。
―― AIはどう思いますか?
ヒロ杉山 AIの作品も作ってるんですよ
家入一真 えー、そうなんですか
ヒロ杉山 PCに色々と言葉を打ち込んで、条件を入れ込んで、何十回もダメ出ししたりして完成させている。でもやっぱり、一つの画材の感覚で捉えている。
―― 家入さんはAIってどのように思われていますか?
家入一真 この1年とかで急激にAIアートもそうだし、chatGPTとかもそうだし、すごく広まっているなぁと。彼らが戦略として、開発したものを自分たちだけで使うんじゃなくて、AmazonのWEBサービスのように一般開放したのがすごいなぁと思っていて、あれによって一気にAIが民主化されて、これまではディープテクノロジーというか、AIをどのように自社開発して行くのかというレイヤーが、一気にソフトウエア、アプリケーションのレイヤーで何を造るのかという話になっている。AIの難しいところは作らなくていいよみたいな。これから、すごい可能性を秘めていて、様々なところで思いもよらないAIの利用方法などどんなものが生まれてくるのか、と現象が面白いなぁと思っています。
―― 少し前にシンギュラリティの話とかありましたが、そのあたりは?
ヒロ杉山 アートは見たことないものを作り出すことがアーティストの課題。AIは情報を集めて作り出す、だから取り込んだ情報以上のものは出てこないから見たことないアートは出てこないと思うんですよね、それ以上のものは出てこない、それ以上を作り出すのはいつまでたっても人間なんじゃないかなぁと。
家入一真 自分の中で問いを立てて考えるのが好きなんですけど、AIが広がっていくと、人間がやらなくていい仕事はAIがやって、人間しか出来ないことは人間がやる。感情は人間しか持てないとか意思決定はAIには出来ないとかいうけど、本当にそうなのかとも思っています。
感情ということでは、自分がここでいきなり怒り出すとした場合、そこまで至るまでのプロセスをシュミレート出来たり、本当の意味での感情を持てないけど、人間の持つ感情ももしかしたら幻想みたいなものかもしれないし、AIも感情を持つこともあるのかなぁ。
ヒロ杉山 恥を描くとかw
家入一真 クリエイティブって心の穴から生まれてきたりするから、AIがそれを実装し始めたら面白いなぁとか。
ヒロ杉山 AIがすごくダサい絵を描き始めて、筆が止まっちゃうとか、今日は気が乗らないとか言ってきたら面白いかもね。
―― コロナ渦をようやく抜け出した世の中に変わってきましたが、これまでどんな変化がありましたか?
家入一真 コロナでダメージを受けた事業、飲食店さんとか宿泊施設さんとか加工業さんとか、一気に困ってクラウドファウンディングを使って下さったことで、何倍もの成長をしました。今はなだらかになっているけど、ベースが上がったのは間違いないですね。このベースって何かというと、これはコロナの特需でなく、コロナがなかったとしてもいつかはやってきたはずだと思っています。個人商店さんとか、地方で経営している方々のデジタル化が前倒しされたのと、応援する人たちのコミュニケーションの価値が可視化されたのだと思っています。おじいさん、おばあさんが経営している飲食店さんにファンがいて、その人たちが遠くからでも通っていて応援していた。そんなことが日本中で生まれた。一つのコミュニティというか経済圏が顕在化、生まれたんだろうな。結果的には我々のようなスモールチームが使う事業が伸びた。大変な思いをされていた方が多くいらっしゃったと思うので、手放しでは喜べないですが、使って下さって、結果的に、そういった選択肢を知ってもらえたのはやっていてよかったと思いました。
リモートが前提になって、200人以上いる社員の半分以上は東京を離れて、そういう世界になったなあと。働く時間は人によっては違うけど、大半の人は一日の多くの時間を仕事に充ててきた。働き方が変われば、生き方が変わっていく。何を幸せに感じながら生きて行くのか、これからよりコロナの影響で、一気に変わった人もいれば、徐々に変わっていく人もいるし、じわっと広がっていく価値観だと思うので、場所とか時間に縛られずに生きていく人たちが生まれてって本業とか副業とか、そういった概念も無くなっていって、住む場所すら選べる時代になっていけば、それこそ、例えばですけど、キャンプファイヤーの仕事をしながらでも週末は農業やってますとか、自分の作品を作っていますとかとなれば、一人ひとりの経済圏を持つことができる、できていくていくというか、コロナが後押ししていたことは間違いないですね。
ヒロ杉山 コロナが無くてもキャンプファイヤーさんの社員さんのような生活スタイルになっていったってことですよね、もちろんコロナきっかけで生活を変えていったわけですが。
家入一真 こう世界がやがてくるって、したい!ってやれればよかったのですが、初めから。なかなか人間の行動習慣とか価値観は変えられないというか。
ヒロ杉山 コロナの時期、京都の大学へ教えに新幹線で通っていたんですよ。でも乗車率は一割ほどだった。今はほぼ満席が続いていると思うんですけど、平日の新大阪行きに乗車しているのはほとんどがサラリーマンの方達だと思うんですよね。でもここ数年は、コロナでzoomで済ませていたはずで、それでも仕事は出来ていたんだと思う。でも今は、また挨拶だけでも出張して無駄な経費と時間を使ったりとか、ってことなんじゃないかなぁと感じてしまっている。
ヒロ杉山 余談ですけど、僕はキャンプファイヤーさんを利用させていただいて、コロナで時間ができた時に作品集を作ったんですよ。それもフリーになってからアーティストとして忙しくしていたのですが、20年ぶりぐらいに時間が出来たので、倉庫にある自分の作品を整理していたら、2000点以上の作品が出てきたんですよ。これをなんとか本にまとめたいなぁと。
ずっと頭の片隅にはあったんだけど、それもコロナがなければ多分一生まとめることもなかったし、そういう意味では有意義な時間が取れたのはラッキーだった。
―― ちなみに地方応援が多かったですか?返礼品目的が多かったですか?
家入一真 あとは、ピュアなリターンを求めない寄付と、ゴリゴリの利回り追求型もあってもいいし、その感情とか気持ちって、それはグラデーションであってもいい。いつかリターンが来てくれたらいいなぁとか、納税するなら生まれた田舎がいいなぁとか、なおかつお米もらえたら嬉しいなぁとか。寄付型とか購入型とか、僕らは色々なものをやっている中でメリットがあるべきだと思っていて、お金、モノだけじゃなくて、体験とかでも、何かしらあるべきだと思っている。
ヒロ杉山 日本人って寄付するの下手ですよねw。海外の人って寄付に対してのハードル低いというか。
さっきのアートの話じゃないけど、無名の作家の絵を買うのと、2年後に上がるってわかっている絵を買う見たいな話に近いのかなぁ。
家入一真 見返りを求めて買ったわけじゃないけど、無名の若い作家の方が突然ガンガンと有名になってくれると嬉しいですしね。
ヒロ杉山 それでいうとKAWS!20年くらい前に友達だったのでキャンバスを10万円くらいで買ってあげたらとんでもないことになってて、でもそれって宝くじみたいな話だから。
―― ヒロさんは時間が出来た事で作品集を出されたわけですが、他のアーティスト仲間の方はどんな感じでしたか?
ヒロ杉山 アーティストは地方に移住した人が増えたかなぁ。東京外にいけば同じ家賃で広い家を借りられたりもするし、もっとも一点集中型で東京に全てが集まっていたのは、おかしな話だし、分散されれば日本全体の経済も回ると思う。あと、これは単なる提案ですけど、新幹線が安くなれば、もっと地方に移動、移住する人が増えるし、ビジネスもしやすくなるかもなぁとも思っている。
―― 家入さん、ストレイムというサービスについてどう思われていますか。
家入一真 もちろん以前から知っておりました。新しい分散型のサービスですよね。どんどん成長していってほしいサービスだと思っています。そんな中では分散型といえば、僕の友人がNOT A HOTELを運営しているのですがすごくうまくいっていますよね。セカンダリーで会員権を買えない人がいて、それで結果的に価値が上がっていくという流れでうまく出来ているなぁと。最初はピンと来なかったんですよ、実は。別荘を買うにしても中途半端だなぁとか、自分の荷物を置けないなぁとか、値段設定も高いし、だったら別荘買っちゃった方がいいかなぁ、とか色々と考えてしまっていました。
―― みんなで持ち合うっていう感じがいいんですかね。
家入一真 そうなんでしょうね。ニーズがそこにあったということなんでしょうね。あのような形のNFTもあるんだなぁと。
―― NFTアートってどう思っていますか?
ヒロ杉山 NFTアートとか、一生懸命付いていかなきゃと思っていて勉強もしてたんですけど、今、さっきも伝えた通りで、アナログアートに傾倒している部分があって興味がおとなしくなっていて収束してる状態です。若干、NFTのアートの価値うんぬんよりもお金儲け感を持っているかもしれない。でもストレイムはこれから色々なNFTにチャレンジしていくのだろうし、もちろん応援しています。
―― 家入さん、NFTアート購入されたことありますか?
家入一真 いくつか買ってみたことはあリます。NFTアートって、どういうのを買った方がいい?ってツイートしてみたら、「僕こんなアート描いています」「最近、こういうコミュニテイ流行っていますよ」みたいなのが多かったです。まだ小さいコミュニティが重なり合っている感覚があって、何かアクセスする権利を持ちあって共存しあっているみたいな感覚も持っている。やっぱり本質的なところはコミュニティにアクセスするための会員権みたいなものなのかなぁ。そのコミュニティをいかに醸成していくか、魅力的なものにしていくかというのが大事なんだろうなぁと、そこにNFTの価値もあるのだろうと思っています。
いろんなトライアンドエラーを繰り返しながら、想定もしない使われ方もしながら広がっていくものだと思っているので、これからまだまだ可能性があるんだろうなぁと思っています。ストレイムのサービスとしての可能性も。
―― ストレイムに関して最後に触れさせてください。
長崎幹広 今まで興味深い話をお伺いさせていただき、また逆に自分達が目指す方向性もお二人のお話をなぞる訳ではありませんが、良い未来が描けそうな気持ちになれました。ストレイムは今まで分散型オーナー権NFTを販売してきましたが、これからは分散型ではないオーナー権NFTや、まさに体験型となるNFT、地方創生に繋がるN F Tなど、実社会にしっかりと繋がるオーナー権NFTを販売していこうと計画中で近い未来に実装予定です。それに伴い、オープンソース化も視野に入れております。リアルアートも販売し、NFTアートも販売し、現在ではお二人の対談を実施している歌舞伎町タワーでギャラリーを出すなど、利用者とのタッチポイントに関してもこれまでの実績ある我々だからこそ出来るNFTの新しい利用、活用方法を今後も目指していこうと思っています。
家入一真 なるほど、ストレイムさんもどんどん進化していっているわけですね!
―― 最後にヒロさんからアーティスト目指す方へ
ヒロ杉山 これからアーティストになる人たちに、別に今も昔も変わらないだけど、今、はSNSとか情報がすごく多くて、ただアーティストは絵を描けばいいって感じじゃなくなってきた。いろんなことをやっていかなきゃならなくなって。ギャラリーとの関係性とか、すごく複雑になっている中でいかに集中して時間をコントロールして精神的な強さを鍛えるのが必要じゃないかなぁと、もちろん、絵を描かなきゃダメだし、技術的にも洗練させていかなくてはならないのは前提です。惑わされないとか、いかに集中するか。結果、いいもの描ければ付いてくるので、それを信じて進んでいくしかない。今、こういうのが売れてるとか、いろんな情報が入ってくるから、本当に自分自身をうまくコントロールしなくちゃならないと思います。そういえば、少し脱線するかもしれないけど、空山基さんの事務所にいくと夕方にチャイムがなるんですよ。それなんですか?って聞いたら、絵に集中すると時間がたっちゃって帰宅しなくて家族に迷惑かけちゃうから、と。それくらい集中するってことなんですよね。
―― 最後に家入さんから起業を目指す方へ
家入一真 如何にオフラインの状態に身を置けるかというのがある意味求められている時代のかなぁと感じています。実は、今年の春に軽井沢に移住したんですよ。会食も減りましたし、用事がない時は一日中軽井沢にいますし。前だったら、東京にいると毎日会食してしまって、それはそれで情報交換とかして有意義ではあると思っています。でもウーバーイーツがなかったのは辛かったなぁ。でも無駄に頼まなくなりました。最近は北の国から全話観たりとか、名作と言われている映画は片っ端から見ようとちゃんと観たことなかったなあと。本読んだりとか。しっかりとオフライン出来るように身を置くようにしています。
ヒロ杉山 ってことはやっぱり絵を描いた方がいいんじゃないですか?二人展やりましょうよ。
「恥書きましょうよ。」それが、軽井沢行った理由ですよ。絶対に描いてくださいよ。
大人になると、恥をかけなくなってちゃうから。
家入一真 そうですかね、そういうことですかね?
ヒロ杉山 死ぬ間際に後悔しない人生を!絵を描けばよかったなぁとか。売れるとか関係なく、書くっていう行為が大事かなぁと。
家入一真 確かに!それは辛いかも!改めて「恥をかく」を自分のテーマにしてみようと思います。
ヒロ杉山 だったら、家入さん、絶対に絵を描くしかないですね!